大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和28年(行)50号 判決 1960年7月01日

原告 大野竜雄

被告 城東税務署長

主文

原告の請求を棄印する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は「原告の昭和二七年度分所得税に関し、被告が昭和二八年四月三〇日付をもつてなした、原告の昭和二七年度分の所得金額を三一二、〇〇〇円とする更正処分のうち、一七八、〇〇〇円を超過する部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のように述べた。

「一、原告は被告に対し、原告の昭和二七年度分所得税に関し所得金額を一七八、〇〇〇円とする所得税の確定申告をしたところ、被告は昭和二八年四月三〇日付で原告の同年度の所得金額を三一二、〇〇〇円とする更正処分をした。そこで原告は適法期間内に被告に対して再調査請求をしたが同年七月一〇日付で棄却されたので、さらに適法期間内に大阪国税局長に対し審査の請求をした。

二、ところが、原告は同年六月四日に、被告から右更正処分による税額を同月一五日までに納付せよとの督促状を受け、期日までに納付しないときは財産差押を執行する旨通知があつた。そこで、原告の右審査請求に対する決定を待つ間に財産差押、公売処分を受けるおそれがあり、そうなると原告は著しい損害を蒙り破産に至るので、所得税法第五一条第一項但書により、審査請求に対する決定を待たずに本訴を提起するものである。

三、被告のなした本件更正処分は次のような事由で違法であり取り消されるべきものである。

(一)  被告のなした更正処分はなんら具体的な調査に基づかないものであるばかりか、原告の提出した諸資料を虚偽なものと即断し、不当な荒利益率、在庫商品の回転率を適用するなど原告の真の経営の実情を無視したものであつて、所得税法第四四条第一項に違反する。

(二)  原告の昭和二七年度分の所得金額をはるかに上廻る過大な所得金額を認定するものである。

(1)  原告の同年度の所得金額は次のとおりである(なお、原告は別表二の仕入金額の合計を二、六八四、〇七四円としているが、これは明らかに計算の誤りで、正しい数字は二、六八三、九九三円である。このことは別表二の計算によつて明らかである。よつて以下の事実摘示にはすべて計算の誤りを訂正した金額を摘示する。また必要経費については原告が所得金額の計算の根拠を主張した後に主張を一部訂正した(その結果、必要経費について両当事者間に争いがなくなつたものである)ので、原告の先の所得金額の計算も当然修正されることになる。よつて、原告はとくに訂正した計算を明示していないが、以下の事実摘示には必要経費の主張の訂正を織り込んで修正された数字を摘示する)。

(イ)  売上金額   二、八三三、五四四円(明細は別表一のとおり)

(ロ)  仕入金額   二、六八三、九九三円(明細は別表二のとおり)

(ハ)  期首たな卸額   二三〇、二六〇円

(ニ)  期末たな卸額   三八四、〇〇〇円

(ホ)  販売原価((ロ)+(ハ)-(ニ)) 二、五三〇、二五三円

(ヘ)  売上差益((イ)-(ホ)) 三〇三、二九一円

(ト)  必要経費 二四一、一四〇円(明細は別表三のとおり)

(チ)  差引所得金額((ヘ)―(ト)) 六二、一五一円

右のように原告の昭和二七年度分の所得金額は六二、一五一円にすぎなかつたが、これは前年度被告において是認した一六五、〇〇〇円を大巾に下廻るため、当時の事情からいつてとうてい税務署において是認されないと考えて、やむなく原告は自己をぎせいにして前年度を上廻る一七八、〇〇〇円の確定申告をしたのである。

(2)(イ)  被告の本案の主張二(二)、(1)について、

右被告の主張事実中、原告が三和銀行関目支店と銀行取引を有する事実は認める。しかしながら被告の主張は次の点において不当である。

(a) 被告は銀行への入金額を売上金と推定しているが、銀行への入金中には原価支払、必要経費支払、家計費支払、支払融通証券の支払等が含まれているのであつて、売上金算出の基礎とすることはできないものである。

(b) 被告が原告の右銀行取引の事実を調査したのは明らかに昭和二八年一〇月である。しかるに被告は右資料をもつて、本件更正処分(昭和二八年四月末)をなすに当つて考慮した資料であると主張している。

(c) 販売原価を売上の七五%と認定したというが、原告の営業の実情に即さない不当な認定である。原告の営業は同業者との競走が激しく、利益率は極度に低くならざるをえない事情にあつた。すなわち割引(ほとんど原価)販売、毀損品の見切販売(原価以下)、柄物(花緒、塗下駄等)の流行遅れの見切整理販売、毀損品の販売不能、時期遅れ品(冬、夏等季節物)の見切販売、高、中、下級品における利益率の相違等の諸事情を総合すると、原告の営業による利益率は被告の主張をはるかに下廻 り、したがつて年間売上高は減少せざるをえない。なお原告の商品販売原価を一、九一五、一二五円とする被告の主張は更正処分に際して調査の結果確定したものではなく、後日になつて前記銀行入金額に不当な利益を乗じて逆算した一方的な数字によるものである。

(ロ) 二、(二)、(2)について

(a) 被告の主張によると、家族数の増減によつて所得が増減することにならざるをえないが、このようなことはとうてい考えられない。

(b) たな卸資産の増加額を所得金額を所得金額の増加と推定しているが、その理由は理解に苦しむ。たな卸資産の増加額を生計費に加算することは、所得金額の計算にあたつてはなんの意義も有しないと考えられる。

(ハ) 同二、(二)、(3)について

被告主張の仕入金額、期首、期末たな卸額、必要経費の主張は原告の主張に基づいたものである(自転車の減価償却費の主張事実も認める)が、売上高は不当な利益率に基づいて計算されたものである。被告は昭和二九年五月二四日、大阪国税局協議官の調査によつて荒利益率を算出したと主張し、乙第二号証の二(荒利益率の計算表)を提出しているが、原告はこのような表を作成するについてなんらの相談も受けていないし、このような表が作成されたことすら知らない。もしこのような表を作成するなら、原告に立会を求め、原告の説明を聞かなければならないはずで、またその場合は原告に記名捺印させてしかるべきである。この表に原告の署名も捺印もないことから考えて、右表は被告の一方的な決定を原告に押しつけるために勝手に被告が作成したと考えられる。これを要するに、原告の営業の荒利益率は前述のように極めて低いのに、被告は不当な、実情に即さない荒利率を適用して売上金額を算出したものといえる。

四、被告主張の三の事実は認める。」

被告は本案前の答弁として「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その理由として、「所得税法第五一条第一項但書の規定は行政事件訴訟特例法第二条但書の規定と同趣旨の規定であつて、「著しい損害を生ずるおそれのあるとき」というのは金銭をもつては容易に回復することのできない甚大な損害を生ずるおそれがあることをいうと解すべきである。租税の滞納処分は滞納者の財産権を公の機関によつて処分するものであるが、かりにそれが違法として取り消された場合でも、処分による損害は金銭をもつて容易に償うことのできる性質のものである。したがつて、たとえば財産の差押があつてもこれをもつて直ちに前記但書の事由があるとすることはできないし、いわんや原告に対して差押処分の前提となる督促状を発したというだけでは、右の事由に当らないこと当然である。よつて審査の決定を経ずして提起された原告の本訴は不適法である。」

次に被告は本案の答弁として主文と同旨の判決を求め、答弁の理由として次のように述べた。

「一、原告主張の一の事実は認める。

二、被告のなした更正処分は適法である。

(一)  被告は原告の昭和二七年度分の所得金額を認定するにあたつては、原告の営業を直接調査したうえ、さらに同業者団体に諮問した答申、または間接的な探聞調査によつて得た各種資料を総合検討して客観的に妥当な金額を認定したものである。

(二)  原告の所得金額

原告は履物類の販売を業とするもので、大阪市城東区関目町(自宅)と旭区新森小路町新森小路市場内の二箇所に店舖を有する。原告は昭和二七年度分の営業に関する帳簿は一応備えているが、これは全く形式的なもので脱ろうが多く不正確なので、原告の帳簿に基づいて所得金額を算出することは不可能であり、推計々算の方法によつて所得金額を算出せざるをえない。

(1)  当初原告は新森小路市場内に店舖を有する事実を隠し、被告に対して申し立てた事実や提出した帳簿等はすべて関目町の自宅店舖の営業に関する資料のみであつたが、被告は次のように推計々算した。

(イ)  売上金額 原告は三和銀行関目支店との間に銀行取引があるので、調査により判明した、原告の当該年度における同銀行への入金額合計二、五五三、五〇〇円を一応当該年度の売上金額とした。この場合、売上金をすべて銀行へ預金することはあまりなく、一部をそのまゝ家計費や仕入先への支払にあてるのが通常であるから、実際の売上金額は銀行への入金額から、少くともその二〇%ないし三〇%は上廻ると考えられるのであるが、一応内輪に見たものである。

(ロ)  商品の販売原価 履物類の小売商の場合、売上金に対して原価は通常六五%ないし七五%であるが、原告の場合、原告の最も有利を七五%と認定し、販売原価を一、九一五、一二五円と推定した。

(ハ)  必要経費 原告の申立額に、家賃等の脱ろう分を加算して一二九、三六〇円と認定した。

以上の資料から計算すると差引所得金額は五〇九、〇一五円となる。

(2)  被告の更正処分における原告の所得金額の認定が原告の実際の所得金額を下廻ることはさらに次のような計算によつても裏付けることができる。

すなわち、原告の当該年度の消費面ならびに資産面から推計すると次のようなことがいえる。

総理府統計局の消費者価格調査報告によると大阪市内の昭和二七年度中一人当り一ケ月平均生計費は 四、〇〇一円で、原告の家族数は五人であつたから、これによつて年間生計費を計算すると二四〇、〇六〇円となる。これに原告が昭和二七年中に納付した所得税五六〇円および市民税六、五六六円ならびに同年中のたな卸資産の増加額一五三、七四〇円(原告主張どおり)の合計を加算した四〇〇、九〇六円が当該年度の原告の所得金額と一応推定できるわけである。

(3)  ところで、原告は、当初被告の調査に際しては新森小路市場内の店舖における営業の事実を秘していたことは前述のとおりであるが、その後になつて、原告の審査請求について大阪国税局協議官が調査したところ、原告が新森小路市場内にも店舖を有する事実がはじめて判明し、原告はようやく右店舖の営業に関する帳簿を提出するに至つたのである。

よつて、原告が本訴において主張する資料を基に、その誤りを修正した上で原告の所得金額をあらためて推計々算すると次のようになる。

(イ)  売上金額 原告は売上金額を二、八三三、五四四円と主張するが、この金額は信用できない。原告は当初確定申告において所得金額を一七八、〇〇〇円と申告し、再調査請求、審査請求においてもこの金額を維持していた(再調査請求書に記載された一七二、二六五円は計算の誤りで一七八、〇〇〇円が正しい)もので、この計算の基礎となつた売上金額はいずれも一、七七六、一一五円であつた。これは原告が本訴において主張した(昭和二八年五月二八日付準備書面)二、八三三、五四四円と極めて大きな開きがある。この理由は、先に述べたように、原告は関目町の自宅と新森小路市場内の二箇所に店舖を有していたのに原告は確定申告、再調査請求および審査請求においては関目町関係の取引のみを記載申告し新森小路市場内の店舖に関する取引を隠していたことによるものである。そしてその後被告の調査等によつて右新森小路市場に店舖を有することを発見されたゝめ、やむなく本訴において売上金額を増額するに至つたものである。ところが原告は右のように売上金額を増額しながら、かえつて所得金額を減額主張しているのであつて、この事実から考えても原告主張の数字が信用できないことは明らかである。

そこで原告主張の仕入金額を基にして売上金額を修正する必要がある。原告の主張する売上金額と仕入金額から荒利益率を計算すると荒利益率は一〇、七%となるが、履物類小売業者の荒利益率は通常の業態で二八%程度で、小売業者よりはるかに利益率の低い卸売業者ですら荒利益率は一二%であり、このような事実から考えて原告の荒利益率の主張に矛盾があるといわなければならない。ところで原告の審査請求に対し大阪国税局協議官が原告宅に臨み具体的に調査した結果では原告の営業の荒利益率は二六%であることが判明した。この荒利益率は昭和二九年五月二四日に原告方の商品を各品目別にたな卸しし、これに原告本人の申立による仕入および販売単価を乗じ、総仕入金額ならびに総売上金額を計算したうえで算出されたものであるが、この数字にさらに値引等の事情を考慮して二二%とするのが原告の営業の実情に即したものである。

原告主張の仕入金額二、六八三、九九三円、期首たな卸額二三〇、二六〇円、期末たな卸額三八四、〇〇〇円を基礎にして右荒利益率を適用すると原告の売上金額は三、二四三、九〇〇円となる。

算式

<1>(2,683,993円(仕入金額)+230,260円(期首たな卸額)-384,000円(期末たな卸額)=2,530,253円(販売原価)

<2>2,530,253円(販売原価)/1-022(荒利益率)=3,243,900円(売上金額)

(ロ)  必要経費 別表三のとおり(原告主張のとおり)。なお、減価償却費の計算は次のとおりである。すなわち原告は昭和二七年に自転車を購入しており、その取得価格は一一、〇〇〇円で原告は減価償却の選定に関する届出をしていないから定額法によつて計算することになり自転車の耐用年数は四年と定められている(償却率は〇、二五〇)からこれを基に計算すると二、四七五円となる。

算式

<1>11,000円(取得価格)-1,100円(取得価格の一割)=9,900(償却の基礎となる金額)

<2>9,900円×0.250(償却率)=2,475円(減価償却費)

以上の結果から原告の昭和二七年度分の所得金額を計算すると別表四のとおりであつて四七二、五〇七円となる。

(三)  以上のように右(二)(1)、(2)、(3)に計算したいずれの金額も被告の更正処分における原告の所得金額を大巾に上廻つているのであつて、被告の認定はむしろ低きに失するぐらいであり、もとより適法である。

原告が確定申告、再調査請求、あるいは審査請求において主張した所得金額は前述のように一七八、〇〇〇円でありこれが信用できないこともすでに主張したとおりであるが原告が本訴において主張する所得金額はさらにこれを下廻るものであつて、これでは家族一名の生計費にも事欠くことになり、とうてい信用できる数字でないことは明らかである。

三、なお、被告は本件更生処分の所得金額三一二、〇〇〇円に不足額があるとして昭和二八年七月一六日、原告の所得金額を三六〇、〇〇〇円とする再更正処分をし、これに対し同年八月一四日に原告から再調査請求がなされたが、被告は昭和三一年五月二三日付、翌二四日に原告に到達した書面で、右再更正処分を取り消したものである。」

(証拠省略)

理由

第一、被告の本案前の抗弁について。

一、原告主張の一の事実、原告は昭和二八年六月四日に被告から本件更正処分による所得税額を同月一五日までに納付せよとの督促をうけ、財産差押を執行すべき旨の警告を受けたので、大阪国税局の審査決定をまたずに本訴を提起したことは当事者間に争いがない。

二、ところで、所得税法第五一条第一項但書後段は、行政事件訴訟特例法第二条但書後段と同様趣旨の規定であつて、同条にいう「著しい損害」というのは、金銭をもつて償うことのできない損害をいうものと解するのが相当である。

右滞納処分としての財産差押、公売はいずれも財産的な処分であり、したがつてこのことだけでは金銭をもつて償うことができない損害を生ずる場合にはあたらないといわなければならない。原告は滞納処分として差押を受けるときは、ひいて破産に至るおそれがあると主張するが、そのような事態に至ることを認めるに足る証拠はない。

そうすると、原告の本訴は訴提起当時を基準として判断すれば、所得税法第五一条第一項但書後段の場合にあたらない不適法な訴であつたといわざるをえない。

三、しかしながら、原告が大阪国税局長に対し審査請求をなした日であること当事者間に争いのない昭和二八年八月一四日から三箇月内に審査請求に対する決定のなかつたことは弁論の全趣旨に照らして明らかである(被告においてもこのことを前提とする主張がある)から原告の訴は結局右三箇月を経過したときから適法になつたものということができる。

第二、そこで以下本案について判断を進めることにする。

一、原告主張の一の事実は当事者間に争いがない。

二、原告は、被告のなした本件更正処分がなんら具体的な調査に基づかないものである旨主張するけれども、証人長谷川勉の証言によれば、被告は昭和二七年度分所得税の確定申告期間中に原告を税務署に呼び出し、証人において原告と面接もしているし税務署として独自の調査をしていたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。原告の主張は採用できない。

三、原告の昭和二七年度分所得金額について、

(一)  証人柿原拓、同長谷川勉の各証言と原告本人尋問の結果を総合すると、原告は昭和二七年度の営業に関して一応帳簿を記載していたが、正確なものではなく、帳簿の記載の基礎となる仕入伝票、売上伝票等の原始記録も完全には保存されていなかつたこと、しかも被告の調査に際しては原告は新森小路市場内における営業の事実を秘して明らかにせず、したがつて原告の申立や提出書類は原告の関目町の自宅店舖の営業に関するものゝみであつたこと、原告の右新森小路市場内の店舖における営業の事実は大阪国税局協議官の調査によつてはじめて明らかにされたものであつて、原告はその後になつてようやく右市場内の営業の事態を申告し、これに関する書類を提出することに至つたことがそれぞれ認められる。右認定に反する証拠はない。

右のような事情であつた以上、被告において推計々算の方法によつて所得金額を認定したのはもとより相当であつて適法である。

(二)  そこで被告が本件更正処分によつて認定した所得金額三一二、〇〇〇円が相当であるかどうかについて検討する。

(1) 昭和二七年度における原告の商品仕入金額の合計が二、六八三、九九三円であることは原告において自ら主張するところであり、同年度の期首、期末における商品たな卸額がそれぞれ二三〇、二六〇円、三八四、〇〇〇円であること、同年度中の必要経費の合計が二四一、一四〇円(自転車の減価償却費を含む)であることは当事者間に争いがない。

(2) 売上金額 昭和二七年度における原告の売上金額については、本訴においても直接これを認定するに足る証拠はなにもないので、原告において自ら主張する右仕入金額から売上金額を推認するより他はない。

原告の当該年度における荒利益率がどの程度であつたかについて検討するに、成立に争いのない乙第三号証によれば昭和二七年度における履物類の小売商の標準的な荒利益率は二七%ないし二八%と計算されていることが認められまた成立に争いのない乙第二号証の一、二、に証人柿原拓の証言を総合すると、同証人が昭和二九年五月二九日に原告方店舖において(関目町の店舖)原告の申立、伝票などを基礎として同店舖の商品約八〇種類について具体的に調査した結果は全商品の平均荒利益率は二六%と計算されたことが認められる。しかしまた、右証人の証言、証人大野透の証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告の関目町新森小路市場内の各店舖は立地条件は決して悪い方ではないが附近にかなり多くの同業者があつて、そのため一般に値引きによる廉売を強いられる結果、荒利益率は通常の標準よりやゝ下廻る傾向にあることが認められる(証人柿原拓の証言によれば、このような事情を考慮して、前記乙第二号証の一、二による荒利益率を修正して二二%としたというのであり、被告においても本案の主張二、(二)、(3)において右同様主張し、二二%の荒利益率を適用している)。ところで原告本人尋問の結果によれば、原告の営業の昭和二七年度における荒利益率は二〇%から三〇%、とくに値引などを考慮すると現実には二〇%をわずかに超す程度であつたというのであつて、右二〇%という数字は本訴において原告の営業の荒利益率についての証拠のうち最も低率のものである。

そこで原告に最も有利なこの二〇%という荒利益率を基にして売上金額を計算すると、その額は三、一六二、八一六円となる。

算式

<1>2,683,993円(仕入金額)+230,260円(期首たな卸額)-384,000円(期末たな卸額)=2,530,253円(販売原価)

<2>2,530,253円(販売原価)/1-0.2(荒利益率)=3,162,816円(売上金額)

(3) 所得金額 右売上金額から販売原価を控除した額(荒利益)から必要経費の総額を差し引いいたものが所得金額であるから、これを計算すると三九一、四二三円となる。

算式

<1>3,162,816円(売上金額)-2,530,253円(販売原価)=632,563円(荒利益)

<2>632,563円(荒利益)-241,140円(必要経費)=391,423円(所得金額)

四、以上のように、原告に最も有利な荒利益率を適用して算出された所得金額ですら三九一、四二三円となるのであつて、被告のなした本件更正処分の所得金額三一二、〇〇〇円を大巾に上廻る結果になるのである。これを要するに、原告の昭和二七年度分の所得金額は少なくとも三九一、四二三円を下ることはないと認められるのであつて、この額以下の金額を認定した本件更正処分は、被告のその余の主張(本案の主張二、(二)、(1)および二、(二)、(2))について判断するまでもなく適法であり、本件更正処分が過大な所得金額を認定するものであるとの原告の主張は失当である。

五、よつて原告の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯隆 中村三郎 上谷清)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例